異人乃戀
部屋に入った湖阿と咏は志瑯の前に座った。
一週間前までは廊下で偶然会うことも含めると、毎日顔を会わせていたが、ここ一週間は全く会わなかった。
会議の際に湖阿からも話を聞くために一部の会議な参加していたが、今は参加していない。それと同時に志瑯が忙しくなり、食事を一緒にとることも無くなってしまった。
一週間ぶりということもあり、湖阿は少し緊張していた。
「志瑯、少し頼みたいことがあるんだけど……」「あれ、なんかしおらしくなった」
隣からの声に、湖阿は咏を少し睨むと直ぐに視線を志瑯に戻し、話を続けた。
「この国の救世主としてっていうわけだけじゃなくて、この国に来たんだから文字とか歴史とかを知らないといけないと思うの。それで、誰か私に教えてくれるような人いないかなぁって思ったんだけど……」
咏が隣で自分を指さしているのが見えたが、湖阿は無視して志瑯を真っ直ぐ見た。
咏という人間に教わるのも極力遠慮したいが、志瑯の片腕に教わるわけにもいかないとい気持ちもあった。それに、志瑯がそれを許可するとは思えない。いくら暇だと言っても、青龍族にとって大切な人材だ。
そもそも、なぜ咏までこの部屋に居るのだろう。
付いて来て欲しいと言ったわけじゃない。それどころか、付いて来て欲しくなかった。
湖阿が下を向いてから志瑯を見ると、何か考えているようだ。湖阿は認めたくなかったが、確実に志瑯は咏を見ている。
湖阿はどうにか阻止しようと志瑯に目で訴えようとしたが、虚しいことにこちらを見ない。
何か話しかけようとも思ったが、うまい言葉が見つからない。
そうこうしている間に志瑯は決断したのか、湖阿を見てから咏を見た。
「咏、やってくれるか?」
「御意。長の命令とあらばなんでも」
勝ち誇った顔で満足げに言う咏に、湖阿は少々殺気を覚えた。
しかし、湖阿は志瑯に嫌だとは言おうとは思えなかった。
志瑯が決めたものを嫌だと言うことは出来ない。他が良いと言えば、志瑯に負担がかかるかもしれない。そう思った湖阿は、大人しく従うことにした。
「……ありがとう、志瑯」
「流石はしー様。気の強い娘を大人しくさせるとは。どんな口説き方をすればこうなるのか是非聞きたいな」
咏の嫌味に、今までのストレスが積み重なり爆発しそうだったが、不発に終わった。
「咏、言って良いことと悪いことがあると私に教えたのはお前だろう」
志瑯のいつもより少し鋭い声に、立ち上がりかけていた湖阿は座った。