異人乃戀

「あれ?楓さん?」

 外にはてっきり楓が待っていると思っていたのだが、居ない。
 変な所でも気を使う楓のことだから今も気を使ってさっさと行ってしまったのだろう。

 湖阿はまぁいいかと咏の所へ行こうとしたのだが、咏の居場所が分からない。

 離れに書庫があると聞いたことがあるが、行ったことは無かった。
 志瑯に聞きに行こうかとも考えたが、また入るのも気が引けたため、湖阿は楓を探すためにとりあえず歩き始めた。

「そう言えば、楓さんっていつもどこにいるんだろ?」

 楓を探そうにも、どこに居るのか分からない。楓と会うときはいつも部屋まで来てもらうか偶然なのだ。

 今まで湖阿から用事があるときは殆ど無かったが、今回みたいな事がまたあったときに不便だ。

 そして、今まさにその状況で何故今まで聞かなかったのか後悔した。
 楓では無い侍女に聞いてもいいのだが、生憎他の侍女も見当たらない。

「この屋敷って人少ないわよね……」

 廊下を歩いている人が限られていて、しかも鉢合う事は殆ど無い。
 侍女も少ないが、衛兵は鷹宗以外は見たことが無かった。
 玄武の屋敷なのだから人は沢山居るはずだ。そこに青龍族が加わったらかなりの人数になるはずなのだが……。

 どれだけの人数が居るのか把握していないため、分からないが。

 ここに居ても仕方ないと、湖阿は一旦部屋に戻ることにした。
 下手に動き回るとこの間のように侵入してきた遊真に出会ってしまっては厄介だ。それに、確実に迷って変なところへ行ってしまう。

 湖阿が歩いていると、知った後ろ姿を発見した。隠れるようにして部屋を覗いているようだ。

「……怪しい」

 湖阿は静かに鷹宗に近付くと、肩を叩いた。

「何やってるの?不審者」
「っ……」

 鷹宗は声を出すのを堪えると、再度中を確認して湖阿の手を掴むとその場から離れた。
 角を三つ曲がった先にある湖阿の部屋の前まで来ると鷹宗は湖阿の方を向いた。

「おい、お前……」
「なによ?あんたが怪しい動きしてるから悪いんじゃない」

 鷹宗はさらに眉間に皺を寄せたが、ため息をついただけで何も言わなかった。

「いっつもなら私が近付くと気付くのに今日は珍しく気付かなかったわね」
「あ?……あれだ」
「あれ?」
「お前、存在感無さすぎだ」

 しらっと言う鷹宗に、湖阿は頭に血が上ったが、何とか抑えた。
 ここで怒ったら鷹宗の思うつぼだ。そう直感した湖阿は、気持ちを落ち着ける為に部屋に入った。

「鷹宗、ちょっと来て」

 鷹宗が何を覗いていたのか気になった湖阿は鷹宗を部屋に招き入れた。



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