異人乃戀

 鷹宗ははじめは入るのを渋っていたが、湖阿がもう一度呼ぶと入ってきた。

「鷹宗、さっき何を覗いてたの?」

 湖阿の問いに、鷹宗は口を開かない。言うつもりで部屋に入ってきたと思ったが、違うらしい。

「言いたくないなら別にいいけどね。ただ……」
「待て」

 言わないなら誰かの着替えを覗いていたって思っておく。と言いたかったのだが、鷹宗に遮られた。

「……バレたか?」
「え?何が」

 鷹宗は眉間に皺を寄せてため息をつくと、入口の方を睨んだ。
 湖阿は何が何だか分からず、鷹宗の視線を追ったが誰か居るようではない。

「おい、外見てこい」
「は?何で私が……」
「いいから行ってこい!」

 反論しようと思ったが、またその繰り返しが面倒になり、湖阿は嫌々戸を開けた。

「湖阿様?」

 外を覗くと、楓がちょうど歩いてくるところだった。
 湖阿が鷹宗を振り返ると、鷹宗は安堵した表情をして大きく息を吐いた。

「何をなさってるんですか?」
「咏の所に一人じゃ行けないからとりあえず戻ってきたの」
「すみません、少し用事があったので……。今から行きますか?」

 湖阿は頷こうとしたが、鷹宗にまだ聞いていないため、首を横に振った。

「もうちょっと後でもいい?」
「いいですよ。何か用事があるんですか?」
「ちょっとね」

 湖阿が部屋の中を見ると、鷹宗が歩いてきた。

「もういいだろ?俺は戻る」
「あ、待ちなさいよ!」

 隣を通り過ぎようとしていた鷹宗の服を掴むと、湖阿は引き留めた。
 まだ聞きたいことを聞けていない。あんな場面を目撃して何も聞かずにいると、気になって勉強どころではない。

「仲がよろしいんですね」

 楓が微笑ましそうに言うと、二人はほぼ同時に楓の方を見た。

「どこが!?」
「んなわけねぇだろ!」

 二人は顔を合わせると、不機嫌そうに二人同時に顔を背けた。



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