異人乃戀
「何か凪さん雰囲気違った気がする」
「雰囲気?」

 前出会った時には清楚で光輝で優しいイメージだったが、先ほどの凪は少し違う。
 強さがにじみ出ていた。玄武の長、咲蓮のような強さ。それに、前会った時に少ししか見ていないが、立ち振る舞いが違うように感じたのだ。

 しかし、鷹宗の陰から少し見ただけな為、そう感じただけかもしれない。

「気のせいかもしれないけど」
「……お前、難しいこと言うな。それも救世主の力か?」

 鷹宗には難しいらしい。湖阿は困惑している鷹宗に思わず笑いそうになった。

「なわけないじゃん。女の勘ってやつ?」

 元々、湖阿は勘が鋭い。反対に鈍い鷹宗にとってはそれが凄い力に映るのかもしれない。

 湖阿は鷹宗の機嫌を損ねないように笑いを我慢した。色々面倒なのだ。

 それにしても、なぜあの二人がこんな所にいるのだろうか。志瑯の部屋が近いわけでもなければ、凪の部屋が近いわけでもない。そして、人通りが少ない場所なのだ。
 湖阿は志瑯と凪は仲が良いんだ、と納得したと同時に胸にモヤモヤしたわだかまりが残る。このモヤモヤは何かと考えたが、答えが見つかる前に鷹宗の声で現実に引き戻された。

「そろそろいいだろ。行くぞ」
「え、あ……そうね」

 さっさと歩いていく鷹宗を湖阿は急いで追う。
 鷹宗に案内されて着いたのは書庫だった。多くの書物が保管されている書庫を学者らしく咏は塒(ねぐら)兼仕事場にしている。
 
「凄い本の数……。」

 学校の図書館とは比べものにならないほどの書物の量に、湖阿は唖然とした。
 玄武族の書物庫と学校では比べることはできないが。さらに、咏が城から持ってきた書物も合わさるとかなりの量になる。棚に収まりきらないくらいに。

「咏はここにいる」

 鷹宗はそう言うと、部屋を出ていく。

「あ、もう行くの?」
「あいつと極力会いたくないからな……」

 鷹宗は眉間に皺を寄せると、行ってしまった。
 湖阿はため息をつくと、再度辺りを見回した。湖阿は図書館が好きだった。友達と騒ぐのもいいが、時には静かにじっくり本を読みたいこともある。

 本を読むのが好きな湖阿にとって、癒やしの時間。

 文字が読めれば、この書物庫の本を読めるのに。と湖阿はうなだれた。

「湖阿」
「ひいっ」

 突然肩を叩かれ、湖阿は手を振り払って後ずさった。気配が全くしなかった。ここにいるのは湖阿一人だけのような静けさだったのだが……。

「そんなに驚かれるとは心外だ。まるで幽霊をみたような反応じゃないか」
「幽霊よりタチ悪そうだけどね」

 湖阿は気持ちを落ち着けるために深呼吸をすると、咏をみた。そんな湖阿を面白そうに見る咏。

「……さ、奥にどうぞ奥方」

 咏は湖阿の手をとると、書物庫の奥へと歩いていく。意外と奥行きがあることに驚き、興奮していた湖阿は咏の言葉への反応に遅れてしまった。

「は?誰が誰の奥方よ」

 誰の妻になったつもりはない。湖阿自身は気にしてはいないが、今まで恋人もいないのだ。

「ん?……冗談に決まってるだろ」

 悪質な冗談に、湖阿は一発殴ろうかと思ったがやめた。ここは咏の場所。何をされるか分かったものではない。




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