異人乃戀
咏から個人指導を受けるようになって一月。湖阿は裏倭については大体把握する事ができていた。
読み書きはまだまだだが、咏は湖阿の覚えの良さに目を見張っていた。
「見た目によらず覚えがいいな。やっぱり若者はいいなぁ」
「見た目によらずって何よ、おじさん」
湖阿は咏を睨みつけてから、背伸びをした。学校での成績は中の下の湖阿だが、歴史などの暗記する科目は得意だったのだ。
歴史や文学が好きだというのもあるが。自分の興味があることの吸収は早いのだ。
一日三、四時間の咏の指導は毎日行われている。時間は湖阿の気が向いたときに来いと言われているのだ。
志瑯や咲蓮達が会議で忙しくしていても、相変わらず咏は書物庫籠もっていた。
「本当に会議でなくていいの?」
「話し合いにこの優秀な学者は必要ないよ」
「……そんな人どこにいるの」
湖阿は辺りを見回す仕草をすると、ため息をついた。確かに咏は優秀だろうが、作戦を提示するだけでは不十分ではないだろうか?他の意見を取り入れた上で再度考える必要があるだろう。
「俺もたまにはのぞいてるさ。女人の着替えを覗くより頻度は少ないけど」
「あんたが参加しなくて正解だわ」
湖阿は冷ややかな目で咏を見ると、立ち上がり机の上の整頓を始めた。
今日は昼前に来たため、そろそろ昼食だ。湖阿は腹の虫がお腹すいたと鳴きそうでさっさと帰ろうとした。
「ありがとー、咏。また明日もよろしく」
「もう帰るのか?咏君寂しい」
湖阿の裾を掴んでうつむいて言う咏に、湖阿は寒気がした。
「気持ち悪い。……まだ何か教えてくれるの?」
「特別な事を教えてやるよ」
咏は顔をあげてニヤリと笑うと、湖阿の耳元で囁いた。