異人乃戀

「どうすればいいのよー!」
「……自分の好きにすればいい」

 夜杜のさっきとは全然違う低い声に、湖阿は思わず顔を上げた。

「青龍族は救世主の力が無いと助からない。力を付けた白虎族に対抗するためには湖阿の力がなければならないんだ。白虎族が裏倭を治めるということは……破滅を意味する」

 真剣な表情に湖阿は押し黙った。
 裏倭がどうなったって湖阿には何の影響もない。しかし、何故か放っておくことができない。
 自分にこの国の未来がかかっているのだ。どのような国かは分からない。しかし、自分の住んでいる国のように人が住んでいる。

「……あたしは何をすればいいの?」
「そう言うと思っていたよ」

 優しく微笑む夜杜の顔を見ると、何故か心が落ち着く。

「とりあえず……私か青龍の王以外の男と寝るのは駄目だ」

 この男はふざけているのだろうかと思ったのは言うまでもない。

「真面目に……!」
「真面目だよ。救世主の子はこの国に大きな力をもたらす。今までの救世主の腿の印は必ずどれか一つで、その族だけの救世主だった」

 意味が分からず、湖阿は首を傾げた。全ての族の印があったらなんなのだろう?

「つまり、助けを求めていない族の救世主になってしまう可能性がある」
「だから、何なの?」
「救世主の役目は……その族を光に導くこと。つまり、最強の子孫を生むこと」

 勿論、それだけではないけど。と、笑う夜杜。どこをどう解釈したら子孫を生むことに繋がるのかいまいち理解できない湖阿は顔をしかめた。

「早目に誰かのモノになる方がいい。白虎に気付かれたら厄介だ」

 モノ扱いされた湖阿は夜杜を睨んだが、真面目な顔をする夜杜に、少し危機感をおぼえた。

「何でえっと…白虎族とか言うのに気付かれたらやばいの?」
「君は人の話を聞いてないね?」

 呆れた物言いの夜杜に湖阿は言い返せない。湖阿は聞いていなわけではなかった。が、知らないことばかりで頭がついていかなかったのだ。

「白虎は力を欲しているんだ。青龍だけの救世主じゃないと知られれば……どんな手を使ってでも湖阿を……」

 湖阿は寒気がして下を向いた。そして、何か違和感を感じた。さっきまで右腿にあったはずの印が消えていたのだ。


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