異人乃戀
「消えてる……どういうこと?」
「ああ、印は何らかの刺激を与えないと出ないよ」
身体的刺激は勿論、精神的刺激でも浮き出るのだ。
さっきは何故出ていたのかを考えるが、浮かばない。刺激……刺激、と考えた湖阿は暫くしてから弾かれるように顔を上げ、夜杜をみた。
「……さっきの……」
「ああいう刺激でも出るんだ」
湖阿は顔を紅潮させて夜杜に向かって拳を振り上げた。
「ざけんじゃない!」
軽々と腕を止められた湖阿は、夜杜を睨んだ。何発叩いても、殴っても湖阿の怒りはおさまらないだろう。
「もしかして……襲ってほしかった?」
神妙な顔付きで言う夜杜に、湖阿は布団を投げ付けた。湖阿がとどく範囲にある全てを投げ付けたかったが、流石に火まで投げる気にはなれなかったのだろう。手を伸ばしたが、すぐに引っ込めた。
「あれが一番手っ取り早かったんだよ。……肉体的、精神的苦痛は大分痛め付けないと出ないからね。ーーなんちゃって」
黒い笑みに湖阿は危険を感じ、夜杜から離れた。神族なのに、どうしてこうも軽い性格なのか湖阿は疑問に思った。
神というのはもっと高貴な存在ではないのだろうか、と。
「それより、早く行った方がいい。皆が君を待ち侘びている」
急に言うと、夜杜は立ち上がり、箪笥(たんす)の中からうっすら青い透明な石のついた首飾りを出した。そして、湖阿の後ろに周り、湖阿の首にそれをかけた。
「これを身につけていれば、龍の印以外はどんな刺激を与えても出てこないから」
湖阿は少しだけ夜杜に感謝すると、立ち上がった。印があると大変だとは分かったが、イマイチ理解出来ていない。
理解出来ていないからこそ、この首飾りは必要なのだ。よく分からないからと、何かの拍子に隠そうともせずに見せてしまうこともあるかもしれない。
「あ、だからといって、他の男と親密な関係になったら駄目だよ」
「ならないから!誰とも」
さっき投げた布団を夜杜から回収すると、しっかり元の位置に戻した。
「私か青龍の王はいいから」
軽く笑う夜杜を見て湖阿は目眩を感じ、布団の上に座った。どこまでが嘘でどこまでが本気か分からない。
「王様はともかく、どうして夜杜もなの?」
青龍の長であり裏倭の王である志瑯なら理不尽だが、まだ分かる。が、なぜ夜杜もなのか理由が見付からない。湖阿が見付けようとしたところで、見付けるのは不可能だが。