竜胆姉弟江戸幕末奇譚
*プロローグ*
「ありがとうございましたっ!!」
道場を、元気よくかけ出てくる少女が居た。
その歳は七つぐらいだと思われる、可愛らしい容姿をした少女だった。
「よーっし!この後なにして遊ぼっかな~」
少女は、この後の予定について考えているようであった。
「あっ!鹿さん!」
少女は道場の裏にある山の木々の隙間を指差した。
そこに、可愛らしい子鹿がいたのである。
「あっ!待って~!」
子鹿は少女に気づくと、山の中へと姿を消した。
すかさず、少女はその後を追う。
(じい様にあまり山の中で遊ぶなって言われてるけど…いっか!)
─数時間後…。
少女はやはり、迷子になっていた。
(うぅう…。やめとけば良かった…!じい様、ごめんなさ~い!!)
少女は半べそをかきながら山道を歩いていた。
真上を見渡すと、そこにはきれいな星空はなく、重苦しい雲が黒々と広がっている。
雲の隙間から時々月明かりが差し込むくらいで、少女は足元を見ることさえままならなかった。
「きゃっ!!」