竜胆姉弟江戸幕末奇譚
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『おとうさん、おかあさん。どこいくの?』
『ヨーロッパの方にだ。また数年居なくなるから、おじいちゃんのところにいなさい。いいね』
『妃愛、暁をよろしくね。お姉ちゃんなんだから、お世話ぐらいできるわよね?』
そう告げると両親は、娘の前からさっさと消えていった。
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結局、数年と言っていたわりには、両親はそれ以来一度も帰ってきていない。
連絡はあるが、年に数回。
そう。自分の子供にまるで関心がないのだ。
(…あの時…暁はまだ3歳で…。ていうか、わたしも4歳だったわけだけど)
妃愛は記憶力がいいため、覚えていた。
「ねぇ、暁。アンタ、お父さんたちのこと覚えてる?」
「あ?」
それまでぼーっと箒を動かしていた暁が、マヌケな声を出した。
「覚えてねーけど?」
「…そっ…か」
(そりゃ、そうよね…。コイツ、あんな小さかったし、アホだし…)
(なんだぁ?姉ちゃん。今一瞬バカにされたような気がするんだが…)