竜胆姉弟江戸幕末奇譚
(…?…なんだろ。やっぱり…女で剣を習うなんてヘンなのかなあ…)
不安げな表情をするひめを見つめると、女は急に目をキラキラと輝かせた。
ぎゅうぅっ
「ひゃあぁっ!?」
突然の出来事に、ひめは収拾がつかなかった。
ひめを腕の中に包みながら、女はひとり歓喜の声をあげる。
「そうかそうかっ!お前みたいな小さな娘が、剣を学んでいるというのかっ!!素晴らしい!素晴らしいぞっ!」
(え…え…えぇえ~!?)
女は、ひめの肩を掴んで顔をじいっと見つめ、そして言った。
「実はな、私も剣をたしなんでおるのだ」
「えぇっ!?」
(あ…だから袴着てるんだ?)
「ふふ…。嬉しいなあ!同じおなごで剣を振るう者が居るなんて…!」
ひめは呆気にとられていた。さっきまでこの人は、クールで大人な人だと思っていたのに…。
今は、まるで少女のようだった。
(…でも、わたしも嬉しいかも。女のひとで、剣道をやっている人はいても、ほんとうの剣をやる人なんて滅多にいないもの…)
ひめは、嬉しそうに笑う女を見て、なんだか自分も楽しくなって、一緒に笑ってしまった。