竜胆姉弟江戸幕末奇譚
すると、少し遠くから、聞きなれた声が聞こえてきた。
「妃愛ー!!どこにいる!」
「ねーちゃああーん!どこだよ~!」
(……!!じい様とあき!)
ひめは女に告げた。
「お姉さん。わたしのじい様と弟が…」
そろそろ行かなければ…と、ジェスチャーすると、女はにっこりと笑って、「そうか」と言った。
「すまんな。お前は迷い子であったというのに、話をさせてしまって。とても嬉しかったぞ」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
「では最後に私から、お前に助言…というのかな?ひとつ言わせてもらおうか」
女は、出会ったばかりの時のような、凛とした面持ちをした。
そして、ひめの肩をつかんだ。
「励み、精進し、男に負けないくらいに、強くなるのだ。女だからってナメられるな。自信をもて!お前の力を認めてくれる人は、必ず居る」
「………はい!」
ひめは拳をぎゅっと握りしめた。
「…あと…」
女は、ひめの頬にそっと、手を触れた。
「…お前と私がこうして出会ったのは、ただの偶然ではないよ。…きっと…お前は私の…」
「いたっ!!ねえちゃん!」
少し離れた木々の隙間から、黒い影がこちらを指差していた。
「…あき…!」