竜胆姉弟江戸幕末奇譚
女は名残惜しそうに、ひめから手を離した。
「…もう…行かねば…」
「えぇっ!そんな…!!わ…わたしはお姉さんの…なんなんですか!?」
女はまた、優しく微笑んだ。
「じゃあな。竜胆家の可愛い子…」
「…え…待…!」
「ねえちゃん!!」
呼び止めようとした矢先、涙でぐしゃぐしゃになった顔が、ひめにしがみついた。
「…あき…」
「うああああっ!ねえちゃ…どこいってたんだよぉ…!!」
「妃愛ぇえっ!!」
ほどなくして、祖父も現れた。
「こんのバカ娘がぁっ!!あれほど言ったのにっ…もう少しで警察を呼ぶところだったぞ!」
祖父は、持っていた木刀で、ゴンとひめの頭を叩いた。
「いたぁっ!ご…ごめんなさ…ごめんなさい…!」
ひめは少し涙ぐんだ。
「…全く…。怖かったろう…」
祖父はひめの前に座り、頭をポンと撫でた。
「…………。ううん。怖くなかったよ。お姉さんが一緒にいてくれたから…」
「お姉さん?」
祖父は、辺りを見回した。
「お姉さんなんぞ、居ないではないか」