竜胆姉弟江戸幕末奇譚
「え…あ…あれ?さっきまで、そこにいたのに…」
いつの間にか、美しい星空はまた、黒い雲で覆われていた。
「…?なにいってんだねーちゃん?ねーちゃん見つけたとき、誰もいなかったぞ?」
しがみついていたあきが言った。
「う…うそ…!そんなはず…」
「わかったから、とりあえずうちに帰るぞ。まったく…汗をかいた道着のままうろつきおって…。風邪をひいたらどうする!」
祖父はぶつくさ言いながら立ち上がり、「ほれ」と手を差し出した。
「…うん」
そのまま3人は、手を繋いで家へ向かった。
ひめは微妙な心持ちなまま、歩みを進めていた。
確かに、彼女は居た。
彼女が話した一つ一つの言葉が、鮮明に蘇ってくる。
(…結局…最後のはよくわかんなかったな…。なんで…わたしの名字が『竜胆』だってわかったんだろ…)
頭を悩ませながら、ふと思った。
(あれ…。じい様の手…あったかい…)