逢い死て


「心織、大学、行かなくていーの?」

朝一でシャワーを浴びたらしい、夕都が艶のある黒髪から滴り落ちる水滴を、バスタオルでわしゃわしゃと乱暴に拭いながら問う。


「まだ、時間、あるから」

「ふーん。……あ、服、要るだろ?」

ブランケットに身体を包ませている私を見てか。
私がこくりと頷くと同時に、クローゼットへと歩いていく夕都。黒Tシャツの、濡れた背中の一部分が張り付いていて、なんとも言えない色っぽい後ろ姿だ。

夕都のマンションに住み着いているわけではないのだけれど、泊まったとき服を替えれるように、クローゼットに私の服が何着か常備されている。


「ん」

ずい、っと黒リボンがついた淡ピンクのサテンワンピースを手渡す夕都。彼からプレゼントされた服たちのうちの一着。
夕都が私の服装を決めるときは、だいたい、


「心織、今日バイト終わったらデートしよ?」

こうしてデートに誘われる。
こうやって誘われ、何度もデートを重ねてきたけれど今日は一段と嬉しい。にやけそうになってしまう。


「うん、じゃあ駅のいつもんとこで待ち合わせね?」

「うーい」


こんな会話をしていると、昨日の痛みとか疑いとか苦しみとかいうマイナスな出来事が嘘のように思える。

嘘であればいい。いや、でたらめに決まってる。夕都はちゃんと私を愛してくれている。じゃなきゃ、デートなんて誘わないと思うんだ。

………大丈夫。



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