逢い死て


ぐいっと手首を引っ張られた。一気に外へと身体を持っていかれた私。
バタン、と閉まるドア。中からは大きな笑い声がした。




「災難だな?人気者の彼氏でさ」

「………」


何も答えられなかった。私は夕都がこんなにもモテてて、人気者だったってこと全く知らなかった。今までどうして、こんなにも呑気でいられたのだろう。


「オレ、同じバンドのベースしてる、圭介。ケイって呼んで? 心織ちゃん」

「…はい」

気付かなかった。この人、夕都と同じステージに立ってたんだ。――ふと、私は夕都だけしか見えていなかったことに気付く。


「ねぇ、アドレス交換しない?」

ケイスケさんがいきなり携帯を差し出してきた。ぐいぐいと詰め寄られる距離に戸惑う。

…私のアドレスなんか知ってどうするつもりなのだろう。この人の意図がわからない。


「……ユウトさ、浮気してるよ?」

「えっ……」

俯いていた顔を思わず上げて、ケイスケさんと目線を合わせる。動揺なんてない、揺らぎのない瞳。

浮気?夕都が?浮気? ――そんなの嘘だ。夕都が浮気なんて、そんな………。


「嘘じゃない」

まるで私の心を読んだかのように諭す。

あまりにも突然すぎるから、情報を処理できない。受け入れられない。受け入れられる……はずが、ない。



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