溺愛彼氏。
今日の始まり。
「恋ー、由樹くんもう迎えに来てるわよー」
「はーい、もう行くー」
私は結城 恋(ゆいき れん)、黒髪でショートカットの至って普通な女子高生。
年は今年で17、背は大体標準くらい?
「っと、行ってきまーす」
「いってらっしゃい、気を付けてねー」
_ふぅ、今日も寒いなぁ。
玄関を出ると昨晩の大雪が積もって、眼の前には真っ白な世界が広がっていた。
この辺ではなかなか珍しい事で、近所の子供達も楽しそうにゆきだるまなんかを作って遊んでいる。
ふと顔を上げると、私を待ってくれたであろう一人の男子が此方を見て優しく微笑んでいた。
「おっす、今日も可愛いっ」
決まって毎朝、彼は私の事を可愛いと言ってくれる。
「はいはい、ありがとう」
けど私は、そんな褒め言葉も軽く受け流す。
冷徹?まさか。今に見てれば分かる.....
____むぎゅ。
ほら来た。
この腕にしがみついてんのは狭山 由樹(さやま ゆうき)、
一応私の彼氏なんだけど.....
「由樹、うざい。離れて」
「嫌ですー、俺何があっても恋から離れなーい」
.....餓鬼か。
こうなるともう何を言っても離してくれない。
そう。私の彼氏は、私を死ぬほど溺愛してるのだ。
今は登校中。
もちろん同じ目的で学校へ向かっている生徒もちらほら居る。
「ちょ、離れて由樹。皆見てる」
そりゃ、朝からこんなラブラブしてたら他の人から見られるのは当然。
けど毎日くっついてるからといってそう簡単に慣れる訳じゃない。てゆーか、
.....ぶっちゃけ嫌。
私の家から学校までそんなに遠い距離ではないが、
私は登下校が大っ嫌い。
まぁね、そりゃ彼氏だし?腕組んで歩いたりそんなの当たり前とか思ってたよ、
「恋ー、愛してんよー」
前までは。
本当は凄く嬉しい、好きとか愛してるとか言ってくれんのは。
でもさ?TPOぐらい考えてくんないかなぁ、馬路で。
そのせいで道のど真ん中、同じ登下校中の生徒に毎日変な視線浴びて....。
「ねぇ恋、聞いてる?」
「聞いてる、嫌でも聞こえてるから」
こんな会話をどれくらいしてきただろうか、
そろそろ由樹にも大人になってほしいな。
「恋ー、おはよ」
此方に手を振りながら駆けてきた女子生徒は南沢 日暮(みなみさわ ひぐれ)、
ふわりと揺れる茶色いボブヘアがチャームポイント。如何にも女子って感じの彼女にはとても似合っている。
「おー、日暮ー。おはよう」
「へへ....、由樹君もおはよう」
小学校からの幼馴染である日暮には、何かあるとすぐに知らせてる。
だから、由樹の事も知ってるの。
「おはよー、南沢ちゃん」
「相変わらず....、恋も大変だね?」
ははは、おっしゃる通り。流石は親友.....
「あ、恋。早く行かなきゃ遅刻しちゃうよ?」
「あんたが言うな、馬鹿」
これが私たちの、一日の始まりなんだ。