異人乃戀 短編集
満月<前サイト一周年記念小説>

 湖阿は少し開いた戸から漏れる光を感じ、目を覚ました。
 眠気眼で戸まで近付き覗くと見えたのは丸い月。

「満月だ」

 湖阿は呟くと部屋を出た。
 あっちの世界では満月だからといって特に何とも思わなかったが、裏倭と元の世界で共通のものがあることが湖阿は嬉しかった。

 今は裏倭の季節は秋。元の世界で言ったら中秋の名月。

 この世界でも団子を飾ったり、月見をするのだろうかと思ったが、誰も何も言わないのだから特に無いのだろう。

 しかし、こんなに月が綺麗なのだから誰か月見をしているかもしれないと思い、湖阿は歩き出した。
 と言っても、今は寝ている時刻。皆、夢の中だ。誰かと眺めたい気分だったが、誰もいない。

 湖阿が諦めて部屋に戻ろうと来た道を戻っていると、肩を叩かれた。

 何も気配を感じなかったのに肩を叩かれ、湖阿は季節はずれだが夏の風物詩、幽霊を思い浮かべた。

 本当に怖い時は悲鳴さえ出ないらしい。湖阿が冷や汗をかきながら腹を括って振り向くと、咲蘭がいた。

「湖阿様?」
「なんだ……咲蘭かぁ」

 湖阿が胸をなで下ろすと、咲蘭は首を傾げた。

「咲蘭、何してるの?」
「月が綺麗だったので月見を。湖阿様は?」
「私も同じよ」
「でしたら、お茶を飲みながら一緒に見ましょう」



 咲蘭の提案に賛成すると、咲蘭がお茶を持ちに行き、湖阿は座っても月がよく見える場所に座った。



< 1 / 7 >

この作品をシェア

pagetop