異人乃戀 短編集

 時折、月が雲に隠れて辺りが暗くなるがすぐに月は顔を出す。月が隠れた瞬間も湖阿は好きだった。

「何やってんだ?」

 この世界の人は気配を消して夜歩くのが趣味らしい。いつも足音がうるさい鷹宗が来るのも分からなかった。

「月見よ、月見。ていうか、あんた酒くさい!」

 湖阿が鼻をつまむと、鷹宗は珍しく湖阿の前で笑った。機嫌がいいらしい。

「志瑯様と陸丞と飲んでたんだ」
「ふーん……二人はもう寝た?」
「まだだろ」

 月を見てお茶を飲むのも多い方が楽しいかもしれないと思った湖阿は、立ち上がった。

「志瑯たち志瑯の部屋でしょ?二人呼んでくるからそこで咲蘭待ってて!」

 鷹宗が何か言う前に湖阿は足音をあまりたてないように走り出した。夜のせいか、気分がいいせいか、鷹宗は何も言わず何かと思いながら湖阿が座っていた近くに座った。

「志瑯、居る?」

 志瑯の部屋の前に来た湖阿が呼びかけると、陸丞が襖を開けた。

「どうしたんですか?」
「今咲蘭とお茶飲みながら月見するから二人も一緒にどうかなって思ったんだけど……もう寝る?」
「志瑯様、どうしますか?」

 陸丞が部屋の中に居る志瑯に問うと、志瑯が部屋を出てきた。

「今夜は満月か」

 志瑯は月を見上げながら呟く。

「たまには月見もいいと思って」
「そうですね。さ、行きましょう」

 陸丞に促され、志瑯と湖阿は歩き出した。



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