彼女はハラハラ時計
倉庫の重たい扉を開けると、そこには鉄骨が剥き出しになった狭く薄暗い場所で俯せになった藍田がいた。どうやら仕掛け爆弾をルーペで調べているらしい。彼女は対爆スーツを着用していなかった。

俺も対爆スーツを脱いだ。こんなものは結局のところ上司の保身のためにあるだけの装備。いざ爆弾が起爆してまえば、なんの防具にもならない。

「藍ちゃん、どんな仕掛けだ?」

「来たんですね。来ないと思っていました。琵琶湖からでは遠いですから」

「…仕事だからな。ルーペを俺に貸してくれるか」

藍田はルーペを外し俺に手渡した。設置された爆弾はおよそ50センチ四方。上蓋はすでに取り外され中が見えるようになっていた。

「そのグレーのスーツって、私との初デートに着たやつですよね。大事な思い出スーツを着て琵琶湖まで釣りしてきたんだ…。さぞかしランカーサイズのブラックバスが釣れたしょ」

「ちゃんと後から謝るから」

「謝る?謝るってなんですか?言ってる意味がよく分からないんですけど、もしかしたら謝らなきゃならないことを美吉田警部補は私にしたんですか?」

「……」

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