彼女はハラハラ時計
片桐巡査は着物の裾を直し、足音を立てることなく静かに桔梗の間から出ていく。ただ、襖を閉める音だけは『ピシャッ!』と激しかった。

どうやら怒らせたようだ…。別に好かれようとは思っていなかったから、それでも構わないのだが、嫌われるのはマズかった。下手すると僻地に左遷かもな。

…不運だ。

ええい!落ち込んでる場合か!とりあえず現場に急ごう!

俺は女将にタクシーを用意してもらい、それに乗り込んだ。そして運転手に警察手帳を見せる。

「警察だ。宇尾薬品工場まで急いでくれ」

「あ、はい」

交通規制がかかっているお陰で意外に早く現場まで近づけた。途中、警察車両に乗り換え現場に到着する。

宇尾薬品工場の駐車場は既に、警視庁の警察爆発物処理車両、消防庁の化学消防車両、その他多くの緊急車両が駐車していた。そして珍しいことに爆弾解体とはまるで無関係な自衛隊の車両までそこにはあった。

慌ただしくあらゆる制服が入り交じる雑踏の中、指揮車両の隣に立つ山根警部の姿を見つけた。

「山根警部!」
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