彼女はハラハラ時計
俺は山根警部から必要な資料を奪い取り、重たい対爆スーツを着用して工場内へと向かった。

背後から、あらゆる職種の人達から声援を受ける。

「彼女の機嫌だけは損ねるな!」

「見合いの失敗は忘れるんだ!」

「ごまかせない嘘はつくなよ!」

「琵琶湖には大物がいたのか?」

「逆説金色夜叉を演じた気分?」

ハハ…。犯罪者にバレてるぐらいだからな、誰に知られていてもおかしくない。だけど、なんだろう、この悲しい気分は…。

工場内の見取り図は、歩いてる途中に頭に入った。後は保管されている薬品の資料を把握するだけ。

エレベーターに乗り、薬品資料をめくる。塩酸ノルトリプチン、塩酸デシプラミン、塩酸マプロチリンチ、塩酸イミプラミン…。

ただの医療薬品ばかりだ。しかも神経系用薬品だし。爆発しても誘爆はない。やはり問題は放射性廃棄物が入ったドラム缶がこの工場にあるかないかだ。

エレベーターが地下で止まり、俺はフロアーの奥へと足を運ぶ。そして爆弾が仕掛けられた地下倉庫にたどり着いた。

藍田はどうしているだろうか…。

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