ため息と明日
カウンターにある席に着くと、マスターが既にカシューナッツを用意してくれていた。
「今日も、いつものでいい?」
グラスを拭きながらマスターに声を掛けられて、頷く私。
私は、決まっていつもソルティードッグを頼む。
どこか懐かしい潮風を思い出すカクテルで、大好きなグレープフルーツの酸味がとても気に入っている。
すると、突然ふと気付いた。
「...ねぇ、マスター.」
ちょうど、グラスに液体を注いでいるところに話しかけて。
「なんだい?」
相変わらず、穏やかな返事が返ってくる。
「智樹、来てたの?」
自分で発した声のはずなのに、
まるで別の人が話しているみたいに、その声はとても遠くに聞こえた。