ため息と明日
本当に欲しかったもの

世界は広がる



あれからしばらく経って、いよいよ出張当日となった。


伊澤さんとは、新幹線のホームで待ち合わせている。


私は、待ち合わせの30分前に駅に着き、少し時間を持て余していた。


すると、ふとどこからかともなく、「アヤキ」と呼ぶ声が聞こえ、辺りをきょろきょろと見渡す。


もしかして、と思いつつ、社用携帯で確認しようと、バックを探っていると…



「おはよう、今日も早いね」



いつの間にか、私の後方から近付いてた伊澤さんの姿があった。



「あっ、おはようございます!すみません、すぐ気付けなくて」



なんとなく、伊澤さんがいるかもとは思ってたけど、さすがに都会の駅はかなり混むので、人も多くてすぐには分からなかった。



「全然。俺が勝手にアヤキを見つけただけだから」



と、朝から超絶爽やかな笑顔での切り返し。


この人は、なんの嫌みもなくこういうことをさらっと言いのけるのがすごい。



「そういえば、まだ時間あるし、飲み物とかいらない?俺、コンビニ行くけど」


どうする?と聞かれ、私も一緒に改札付近のお店に行くことにした。



伊澤さんは、テキパキと飲み物コーナーに行くと、私に何が欲しいか訊ねてきた。


お茶をお願いすると、自分用の水と、レジの近くにあったお菓子、ガムを一つずつ取って、お会計をした。


私の分を出そうとすると、手のひらをこちらに向けて、出さなくていい。という合図をくれる。



こういうとき、上司だなぁって改めて思う。甘えるときって、難しいけど。。



コンビニを出て、はい、とお茶を渡される。



「ありがとうございます」


お礼を言うと、いーえ。と王子スマイル



会社にいるときは、周りの女子の目もあるし、極力仕事の話以外は、伊澤さんに近付かないようにしているためか、あまりじっくりとこの笑顔を間近で見ることは少ない。

だからか、改めて伊澤さんを見ると、全然衰えもなく、むしろいい感じに大人の男の余裕さが表れていて、何年経っても変わらずイケメンなんだと、感心していた。


そんなとき、


「あと、よかったら、これも。確か甘いもの好きだったよね?」



さっき、買っていたチョコレートのお菓子を私にくれた。



てっきり、伊澤さん用だと思ってたのに…


いいんですか?と、彼を見つめて言うと



長旅になるから、とふんわり笑って差し出してくれたお菓子を、大事に受け取った。




ちょっとだけ、きゅっと、自分の中の何かが動いた気がした。





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