ため息と明日
結果的に、やはり以前私が担当していた案件にかなり近しい部分があり、そのプロジェクトも成功を収めた実績があることから、お客様との打ち合わせの中で、私達の会社で提案可能だと、結論が出た。
しかし、人員面でどうしても現地サポートに入ってもらわなければならないリソースをうちの会社では、確保できなかった。
そこで、当初の計画の想定にも入れていた現地パートナー企業との打ち合わせを午後から実施することとなった。
地下鉄がない地方拠点ではほぼ車移動となる。
タクシーに乗りながら、私は今後のスケジュールの見直しと、次回プレゼン内容について、資料の構成を練っていた。
車窓からみえる空を一点に見つめながら、考えていると
「この前さ…大丈夫だったか?」
それまでは、今日の打ち合わせ内容について話を詰めていたが、伊澤さんは突然違う話題を私に振った。
ん?何を?という意味で、不思議に思っていると
「米田のこと、アヤキが本人に伝えたって聞いてさ」
なるほど。その話か。
伊澤さんの表情からはいつもの笑顔は見られず、何か秘めているものがある。
私は努めて平然と答えた。
「米田くん自身は、かなり精神的なショックが大きかったと思います。私のような人間が、彼に対して何か気の利いたことを言えるわけもないですから。
それでも、彼は必死に現実を受け入れようとしていました。
もう一度、本社に彼が戻ってこれるよう頑張ると言うのなら、私は、彼の努力に負けないように、上を目指します。今度は、しっかりと引っ張り上げてあげられるような力を持てるようになりたいんです」
あの時、震える姿に何もして挙げられなかったような不甲斐ない上司になんて、二度とならないように
私は、もっと自分を高めていかなければならないと思う。部下を守ること、それが上の役目なんだから。
伊澤さんは、ずっと真っ直ぐに私の目を見つめながら、話を聞いてくれていた。