ため息と明日
わかってた。なんとなく。
この人は、こういう人だって。
たぶん、本当は私なんかじゃ絶対釣り合わない人。
とにかく私服も様になり過ぎていて、いつもの会社での雰囲気を消して、ラフな姿がまた一段と彼の柔らかい雰囲気を引き出していて、すごくカッコいい…
絵になるって、こういう人のことをいうんだろう。
出てきた私に気付くと、彼はすかさず駆け寄ってきてくれた。
「おはよ。ごめん、ちょっと早かったかな?」
いえ全然っ!なんて、返したけど、もうすでに帰りたくなってきた。
そんなの御構い無しに、彼はものすごく嬉しそうな顔だ。「オフの日の格好、すごくかわいい」なんて、一つの照れもなしにさらっと言っちゃうし。
年齢的にいい大人なハズなんだけど、恋愛からだいぶ遠ざかり過ぎてて、この手のことを言われてもなんて返していいか分からない。
とりあえず、お礼を言っておいた。
さっそく伊澤さんの車の助手席に「乗って」と柔らかく案内されるともう緊張がピークに達して、ガチガチに固まってしまう。
この車、一般ピーポーではなかなか手に入れられない外国製の代物だ。
シートもフカフカだし、汚れなんて見当たらない。
挙げ句の果てには、「シートベルト付けれる?」と運転席から微笑まれ、本気でヤバかった。伊澤さんが既にベルトに手をかけていたから。
この人は微笑みで確実に私をノックアウトできる。
自分でやれます!むしろ自分でやらせてくださいっ!!!
33のゾロ目が男性にシートベルト付けてもらうとかあり得ないっ!!!
この件については、全力でお断りした。残念そうな顔をされたのは気のせいであろう。
ゆっくりと発車してから、流れてきた音楽は偶然にも私も好きな曲で、ガチガチに固まってた私も、歌をきっかけに、少しずつ伊澤さんと打ち解けた会話ができていた。
しばらくすると郊外になり、大好きな海の見える景色が広がってきた。
海を見ると昔からすごく落ち着く。景色に見惚れてしばらく眺めていると
「海、好きなの?」と尋ねられた。
昔から大好きだと返事をすると、「じゃあ今日はもってこいかもね」と、いつものようにニコッとステキな笑顔を向けてくれた。
なんだか楽しみになってきた。