ため息と明日
男の瞳が私の存在を捕らえた時、目を見開いた。
数秒、固まっていた顔は、ようやく苦笑いという何とも微妙な表情へと変化した後、期待以下の言葉を発した。
「...よう。隣、座れば?」
相変わらず、ぶっきらぼうな話し方。もっとマトモな挨拶が出来ないのか。
来る前の緊張が馬鹿みたいに思えるくらい若干、イラっとした。
私の思ってることが、向こうにはダイレクトに伝わったようで、更に苦笑いに深みが増した。
「どーも。じゃ、失礼します」
向こうがその感じなら、こっちだって、相応の対応してやる。
30過ぎた大の大人が二人して大人気なさすぎるのは、分かっていたけど、どうもヤツと一緒にいると素直になれない。
そんな私たちを見てきたマスターは、色々空気を察して、少し遅れて部屋に入ってきた後、いつものカクテルを直ぐに作ってくれた。
ソルティドッグが出てきて、一口飲んだ時、まだ私たちは無言だった。
二人の様子が余りにも進展がなさそうだったゆえ、マスターは「久しぶりに、お互いゆっくり話なよ。僕はちょっと買い出し行ってくるから」と、部屋を後にした。
否が応でも、この状況下、沈黙はキツイ。
「ねぇ...何か、喋ってよ」
すると、盛大なため息が隣から聞こえてきた。
喧嘩でも売ってるのか?
ここへ来た目的を早くも見失いそうになってくる。
ふと、右隣の人間に顔を向けると、さっきまでの苦笑いは消えていて、目線を宙に向けて、物思いに耽る男がいた。