木犀草が告げること
「…大丈夫でしたか、蘭?」
刀の血と脂肪をぬぐって、鞘に収めた瞬間、兄貴はいつもの兄貴に戻った。
へにゃりとした、柔らかい笑顔。
さっきまでの、目が合うだけで人を射殺すような視線も、軽薄そうに笑う口もない。
「兄貴ってほんと変だよね」
「…」
「…総司兄さんって変わってるね」
「そうですか?蘭のほうが変わっている思いますけどねえ」
その言葉がぐさりと突き刺さる。
確かにあたしは、髪も一つに高く結んでいるだけで無造作に流してる。
男のように袴もはいている。
一人称が、“あたし”なだけ、まだマシかもしれないけど。
あたしのことを知らない人は、あたしが男のような振る舞いをすることを酔狂だと揶揄する。
今はもう気にならないけど。
「…総司兄さんとあたしって、絶対性別逆だよ」
「そうですかねえ」
「そうだよ」
「僕はそうは思いませんよ」
兄貴がこちらへ向き直る。
いつもは、へひゃり、とした表情だけど、珍しく、真剣な顔をしていた。