木犀草が告げること


「蘭はとても綺麗です。その髪も瞳も唇も。心さえも美しい。世の男は皆、かわいそうです。君の本当の美しさを知ることが出来ないのだから」

 その点、僕は優越感を味わえますけど、と兄貴は笑った。

「…っ」

 この人は、なんでこんなに恥ずかしいことを口にするの!
 耳まで熱くなってきた。きっと今、あたしの顔はこれでもか、というほど、真っ赤に違いない。

「さあ、屯所に帰りましょうか」
「…っ分かった!」

 差し出された手を思わず振り払い、あたしは兄貴よりも先に屯所のほうへ向かって早足で歩き出す。
 後ろから、兄貴が笑いながらついてきた。

「蘭」
「何?!」
「可愛いですよ」

 もう、頭は血が上りきっていた。
 恥ずかしさから逃れるため、あたしは屯所まで全力で走った。


 あたしの名前は沖田蘭。
 新撰組一番隊組長、沖田総司の異母妹であり、存在しないはずの、十一番隊組長。

 決して表へ顔を出すことはない。ましてや刀を振るうことなどない。
 けれど、

「兄貴のばかっ!」

 新撰組の中で唯一の、女隊士だ。


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