執事ちゃんの恋
プロローグ
執事ちゃんの恋 プロローグ
酷く切ない朝だった。
私は、隣で静かに眠っている彼の寝顔を見つめる。
――― これが最初で、最後。
シーツを胸まで引き上げて、カーテンからかすかに零れ落ちる光を見て決意を新たにする。
――― 女の子でいられるのは、ここまで。
もう大好きな姫グッズや、乙女グッズに囲まれた生活はできない。
自然豊かで茶畑が広がる景色を見るのも、当分はないだろう。
そして。
彼の顔を見るのも、これが最後かもしれない。
今日は私の20歳の誕生日。
世間一般では、オトナの仲間入りだと祝福される日だろう。
しかし、霧島家に生まれ育った者たちにとっては違う意味合いが存在する。
とくに女として生まれた者にとっては……重い未来の始まり。
朝がきた。
それと同時に、私の手と足には家という重い枷が纏わりついた。
さようなら、昨日までの私。
さようなら、私の恋心。
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