執事ちゃんの恋
第3話
第3話
今日はヒヨリの誕生日だ。
同時に、双子の片割れ、ヒナタの誕生日でもある。
いつもなら誕生日パーティーを開くところだが、今回はなし。
20歳の誕生日だ。霧島家では意味のある年齢となる。
それなのに誕生日パーティーを開かなかった要因は、もちろん行方不明中のヒナタにある。
二人揃ってパーティーに出なかったとなれば不審がる人物も多々いるということ。
なので、表立っての理由として、
「独身最後の誕生日は家族だけでお祝いしたい」
というヒヨリたっての願いということで、誕生パーティーは免れた。
周りの霧島縁の人間はヒヨリがこれからどんな運命を辿るか、わかっている。
婿養子を迎え、好き嫌いという個人の感情は重視されず結婚させられるのだ。
ヒヨリのその願いを叶えてあげたいと誰もが思ってくれたようだ。
だが、本当のところといえば……ヒヨリではなく、ヒナタが運命に逆らって逃げ出したというオチだ。
と、いうことでヒヨリは今、自分の部屋に篭っている。
荷造りはすべて終えたヒヨリは、明日この家を出て行く。
窓をガラリと開けると、晩秋を思い起こせるほどの涼しい風がヒヨリの頬を掠めた。
あと一時間もすれば日付は変わる。
この家は朝が早い。静まり返る屋敷に安堵しながら、ヒヨリは二階の自分の部屋の窓から大きな樹木に飛び移った。
サラサラと腰まである黒髪が揺れる。
ヒヨリは音をなるべくたてないように木を伝い、地面に降り立った。
そして目指すのは―――
ヒヨリは持ってきた靴を急いで履いて、地面を蹴った。
真っ暗な茶畑を駆け抜ける。
さすがにこの時間だ。回りには民家もほとんどない。
だからこそ、ヒヨリがこの時間に動いても誰にも気づかれずに家を飛び出すことが出来たのだが。
息を切らし飛び込んだ先は、健の家だ。
いつも鍵が閉まっていないことは知っている。