執事ちゃんの恋
ヒヨリとヒナタ。
二人はきちんと存在していているということ。
ヒヨリとヒナタは別人だということを、改めて世間に、そしてコウや文月家当主の栄西に知ってもらわなければならない。
特に栄西は、どこか疑っている様子があった。
ヒヨリが実はコウの執事をしているということを一番ばれてはいけない人物といえば、文月家当主である栄西だ。
その栄西にだけは、必ず挨拶をしておかなければならない。
今日、このパーティーに直接ヒヨリを呼んだのは、ほかでもない栄西だからだ。
そのために、今日、こんな危ない橋を渡っているのだから。
ヒヨリは顔が引き攣りそうになるのをグッと我慢して、少しだけ口角を上げる。
緊張で、すぐに口角が下がってしまうのを、なんとか気力でカバーする。
栄西を目の前にし、健はヒヨリの背中をポンと優しく叩いた。
頑張れ、健の気持ちが伝わり、ヒヨリは小さく頷く。
精いっぱいの笑顔をたたえて、栄西の前に立った。
「お久しぶりです。今日はお招きいただきありがとうございます。霧島ヒヨリでございます」
「やぁ、ヒヨリ。久しぶりだね。君がこんな小さなころに一度会ったきりだったから、また会いたいと思ったのだよ」
栄西は、自分の腰ぐらいのところで手を翳し、小さかったヒヨリのことを思い出して懐かしげだ。
「光栄でございます」
ヒヨリはそんな栄西に対し、小さく頭を下げたあとほほ笑んだ。
そんな会話に割り込んできたのは、もちろんコウだった。