執事ちゃんの恋
「初めまして、あなたがヒヨリね?」
「初めまして。霧島ヒヨリと申します。コウさまとお会いできて光栄です」
「こちらこそ、ずっとヒヨリに会いたいと思っていたの。とっても嬉しいわ」
花が咲き綻ぶように笑うコウを見て、ヒヨリは思わず目尻を下げた。
今日のコウは振袖だ。彼女曰く、ヒールの高い靴を履く羽目になるドレスより、草履で着物のほうがまだ楽だという。
ヒヨリからしてみれば、着物のほうが動きが制限されてしまうので、ドレスより大変ではないかと思ったのだが、コウはどうやら違うらしい。
幼いころから着物を日常着ていたようなので、それも頷けるというものだ。
コウはチラリと栄西と健を見る。
二人はなにやら話しこんでいて、こちらを気にせず花を咲かしている。
それを確認したあと、コウはヒヨリを引っ張って誰もいなかった壁際まできた。
「ねぇ、ヒヨリ。ちょっと耳を貸して」
「え?」
「いいから、いいから」
コウに腕を引っ張られ腰をかがめると、耳元でコウは囁いた。
「お願いが……あるの」
「お願い?」
小さな声でコウは呟く。それにつられてヒヨリも小さく声を出した。
「ヒナタに無理をいって、あなたと会いたいと言ったのは私なの」
「……ええ」
「どうしてもヒヨリに協力してほしくて」
「協力?」
どうやらコウが、あれほどまでヒヨリに会いたいと願っていたのは協力を請うためだったようだ。
しかし、いったい何に協力をしてほしいというのだろうか。
コウの傍には、いつもヒナタがいる。
執事として、コウには常日頃から傍に仕えているのだし、信頼も得ていると思う。
そのヒナタを差し置いて、双子の妹であるヒヨリに協力を依頼するということは……どういうことなのだろうか。
ヒヨリは、首を傾げてコウの次の言葉を待った。
が、それは予想とはかけ離れて無理難題だった。
思わずコウのその告白に、ヒヨリは言葉が出なかった。
「あのね。私、ヒナタのことが好きなの。ヒヨリ、私の恋が実るように協力して」
目の前で拝むように手を合わせるコウを見て、ヒヨリはどうしたらいいのか戸惑った。