執事ちゃんの恋





「ヒナタってば、完璧すぎて隙がまったくないの」

「……」

「でも、これからは積極的にアプローチするつもりなの。ヒヨリも応援してね」

「は、はい……」


 顔を引き攣らせながら返事をするヒヨリ。

 とりあえずこの場を収めるには、返事をするほかなかったのだ。

 とにかく逃げよう。

 考えるのは、そのあとだ。


 そう思って健のほうをみたヒヨリだが、隣にいる人物を見て叫び声をあげそうになった。

 挙動不審のヒヨリを見て、健の隣にいる人物にコウも気がついたようだ。


「あれ? 美紗子ちゃんがいる」

「お、お知り合いですか?」

「ええ。だって健くんの元フィアンセだしね」

「……」


 サラリといいのけるコウに、やっぱり本当だったんだと現実を突きつけられてヒヨリの胸はチクンと痛んだ。

 さきほど健が取ったホテルの一室で美紗子に会ったときは、ラフな服装だったはず。

 しかし、目の前にいる美紗子はきちんとドレスを着込んでいる。


 真っ赤なドレス。

 ピタリと身体のラインを見せていて、自分に自信がなければ着ることができない装いだ。


 口元を彩る真っ赤な口紅。

 それが、またオトナの女を演出していてキレイに映えている。


 少しだけ驚いた様子の健の隣に、美紗子は寄り添うように立ち、文月家当主である栄西と話しこんでいる。

 そこには栄西と同じぐらいの年の男性もいて、4人で和気藹々とした雰囲気だ。






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