執事ちゃんの恋





「あー、もしかしたら結婚することになったのかな」

「え?」

「んー、このまえ健くんが言っていたのよね。結婚するかもとかって」

「……」


 コウの誕生日パーティーのときだ。

 ヒヨリも思い当たり、心の中で頷く。


「健くんは女性の裸身は描かない主義だったのに、つい最近描いたって言ってたし」

「……」

「美紗子ちゃんを描いたのかなぁ。あの二人、お似合いだしね」


 キャキャと頬を赤く染めながら、二人を見つめるコウ。

 しかし、ヒヨリは直視できずにいた。

 
「元サヤってヤツかな? でも、二人が幸せならそれでいいか!」

「……」

「ね! ヒヨリ。貴女もそう思うでしょ?」


 罪のない笑顔でコウにそう言われ、ヒヨリは頷くしかできなかった。

 
 ――― やっぱり、あの二人は繋がっていたんだ。


 ヒヨリはギュッと唇を噛み締めた。

 今、気を緩めたら泣き出してしまいそうだったからだ。

 やっぱり自分は、ただのお遊び、時間つぶしだったのだと改めて再確認したヒヨリは、絶望感を抱きながら遠くなりそうな意識の中、二人を見つめた。


「そういえばヒヨリと健くんって知り合いなのね」

「え?」

「だってエスコートされて、ここに来たでしょ?」

「あ、はい……霧島家がある静岡に健せんせも住んでいらしたので……」

「ふーん、でも健くん、ヒナタのことは知らない感じだったよ? なんでかしら?」


 ギクリとヒヨリは肩を揺らした。

 そういえばコウの誕生日パーティーの際、突然現れた健は、ヒナタとは初対面のフリをしていたはず。

 設定ミスにヒヨリは慌てたが、うまく繕う。


「ヒナタはイギリスにずっと留学していたもので……」

「そっかぁ、健くんも風来坊だしね。なかなか会えなかったわけかぁ」


 納得した様子のコウを見て、ヒヨリは心から安堵した。

 ヒヨリのそんな気持ちも露知らず、コウは無邪気に美紗子に手を振る。







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