執事ちゃんの恋
「美紗子ちゃーん! 久しぶり」
コウの声に気がついた美紗子は、オトナの色香を唇に乗せ、小さく手を振る。
そのあと談笑していた3人になにやら一声かけてから、ゆっくりとヒヨリとコウの元にやってきた。
「コウちゃん、久しぶりね。元気そうでよかったわ」
「美紗子ちゃんも! キレイに磨きがかかってきたよね!」
「コウちゃんだって、これからよ」
「いいの、いいの。お世辞はいいのよ」
年の離れた姉妹のように打ち解けているコウと美紗子を、なんともいえぬ気持ちでヒヨリが見つめていると、美紗子はクスリと笑った。
コウに見られないように、こっそりと。
その笑みは、してやったりとばかりな傲慢な笑みで、ヒヨリは思わず眉間に皺を寄せた。
「美紗子ちゃん、こちらはね霧島ヒヨリ。私の執事、ヒナタの双子の妹なのよ。ステキでしょー?」
「うふふ、そうね。実はヒヨリちゃんとは面識があるのよ」
「え!? そうなの?」
驚くコウに、美紗子は意味ありげにヒヨリにほほ笑んだ。
「今日のヒヨリさんの装いは、私がやってさしあげたのよ?」
「えー!? そうなんだ。美紗子ちゃんは有名メイクアップアーティストだもんね。いいなぁ、私も今度やってもらいたいな」
「いいわよ。また連絡ちょうだい?」
フフッと軽やかに笑う美紗子に、コウは手を上げて喜んでいる。
だが、ヒヨリは固い表情で動けないままだ。
今日のことは、すべて内密のはずなのに……わざわざ美紗子からコウに言うだなんて。
ここまでなら、まだ大丈夫か。
ヒヨリは、ギリギリのボーダーライン上の美紗子の発言に、なんとか心を落ち着かせようとした。
そのときだった。
美紗子の目が怪しげに細められた。