執事ちゃんの恋
「ねぇ、コウちゃん。噂のイケメン執事さんは、どこなの?」
「え?」
「ヒヨリさんの双子のお兄さんなんでしょ? そっくりっていう話じゃない」
「うんうん、そっくりだよ。どちらも美形なんだよねー」
「ふふ、今日ここに来たのは執事さんにお会いしたいなと思ったからなの」
チラリとヒヨリに視線を向けて、美紗子のキレイに彩られた唇がゆっくりと上がる。
どうみても挑発的な態度だ。
ヒヨリは、背筋が凍る思いがした。
「えー? 美紗子ちゃんって案外ミーハーなんだね」
「だって気になるでしょ? あちこちでも噂になっているわよ。コウちゃんの執事さんがとってもステキなんだって」
「確かに……ステキだけどね、ヒナタは」
頬を赤く染めてモジモジと呟くコウに、美紗子はクスクスと笑いながらコウに抱きついた。
「ねぇ、執事さんに会わせて? コウちゃん」
「んー、しょうがないなぁ。美紗子ちゃんの頼みじゃぁ……衣笠」
傍に控えていた衣笠が、コウの近くに寄ってきた。
「ヒナタを呼んできてちょうだい」
「しかし、ただいま霧島はバックヤードで仕事中ですが……」
「お願い! 衣笠。ちょっとの時間でいいの」
手を合わせてお願いするコウを見て、衣笠は深くため息をついた。
「しかたありませんね。では、今から霧島を呼んでまいります。コウさまは、お一人で大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。すぐ近くにお父様もいらっしゃるし、美紗子ちゃんもヒヨリもいるんだもの」
「では、少々お待ちください」
深く頭を下げた後、衣笠はスマートな仕草で踵を返し、バックヤードに行くべく会場を後にした。
待って!
ヒヨリは、思わず衣笠に声をかけたくなったが、寸でのところで我慢をする。
衣笠には、バックヤードでの仕事があるから少しの時間だけヒナタと変わってほしいとだけしか伝えていない。
詳しい内容を衣笠は知らないのだ。
今、バックヤードに行っても、ヒナタを見つけることはできない。
なにしろ、コウの執事であるヒナタは今、ヒヨリという女に戻って、コウの目の前にいるのだから。
どうしたらいいものか、ヒヨリはそう思って健を見たのだがそこには彼の姿が見えなかった。
「え?」
辺りをキョロキョロと見渡すと、強引に栄西に連れられて挨拶周りをしている。
健の助けを求めることは現状厳しい。
――― どうしよう!
パニックに陥りそうになったヒヨリの耳に、信じられない人の声が聞こえた。
「遅くなって申し訳ありませんでした、コウさま」