執事ちゃんの恋
第23話
第23話
突然の登場に、ヒヨリは声が出なかった。
それは、目の前の美紗子も同じだったに違いない。
目を大きく見開いて、口をパクパクと動かしている。言葉にならなかったのだろう。
一方のコウはというと、裏事情を知らないが故の無邪気さだ。
「もう、ヒナタ。仕事のほうは終わったのかしら?」
「ええ。やっと解放されました」
「大丈夫だった?」
「はい、ご心配をおかけしまして申し訳ありません。万事纏まりましたので、ご安心を」
ヒナタは余裕の笑みを浮かべて、ヒヨリに向き合った。
「ヒヨリ。久しぶりだね。なかなか姿を現さなかったけど、今回はどこに行っていたの?」
「え……っと」
「なんだい? 内緒なのか? 相変わらず秘密主義なんだからな、ヒヨリは」
嬉しそうにヒヨリの頭を撫でるヒナタ。
今だ固まったままのヒヨリを庇うように、ヒナタはあれこれと話していく。
それは、この入れ替わり劇をなんとかコウに悟られないようにする手立てだと言うように。
執事らしく控えめに、それでいて確固たる強さを滲ませながらヒナタは口を開く。
「ヒヨリ、頼むからどこかに行くときは、必ず私に連絡してくれ」
「ヒナタ……」
「今回のように運よくヒヨリと連絡とれたのは奇跡に近いからね。頼むよ」
ポンポンとヒヨリの頭を優しく叩くヒナタを見て、コウは口を挟んだ。