執事ちゃんの恋
「あなた、本当に霧島ヒナタ?」
強引にヒナタの顔を覗きこむ美紗子に、コウはびっくりしたように口をあんぐりとあけて見ている。
コウの視線も気づかず、美紗子はヒナタの腕を強く揺すった。
ヒナタは今までの甘い笑みをひっこめ、美紗子を見たあと、コウに視線を向けた。
「コウさま」
「は、はい!?」
「こちらの女性は?」
「えっと、美紗子ちゃん……村岡美紗子さん、メイクアップアーティストなの。それで、」
コウがそのあと言葉を続けようとしたのだが、ヒナタに制止された。
「あちらの村岡物産社長の娘さんということですか」
「そ、そうだけど……」
ヒナタの様子が一変したのを、コウは目を白黒させて見つめている。
コウの驚きぶりを見て、ヒナタは少しだけ表情を緩めた。
が、美紗子を見たヒナタは再び表情を固くした。
「村岡さま、先ほどの発言はどういった経緯でおっしゃったのでしょうか?」
「っ!」
「私は正真正銘、霧島ヒナタですよ」
「……」
真っ赤になって下を俯く美紗子に、ヒナタは冷徹な態度を崩さない。
クスッと意味ありげにほほ笑むあたり、さすがはヒナタだ。
自分たちにとって悪しき者と判断すると、容赦ないのは昔から。
ヒヨリは、ヒナタの対応を少し距離を置いてみていることにした。
「村岡さまは、おかしなことをおっしゃられる。ほら、特殊メイクなどしていませんよ」
「っ!」
般若のように顔を歪め、ヒナタを睨みつける美紗子をみて、コウも怪訝そうに眉を顰める。
「美紗子ちゃん、どうしたの?」
「……え?」
「なんだか美紗子ちゃんらしくない……」
心配そうに美紗子の顔を覗きこむコウに対し、顔を背けた美紗子は、今度はヒヨリに視線を向ける。
その表情は、あのキレイな美紗子の顔ではなかった。
憎しみに似た、真っ赤な瞳。
ヒヨリは、固唾をのむ。