執事ちゃんの恋
「私は認めないから」
「え?」
なんのことだろうとヒヨリが美紗子の言葉を思案していると、美紗子は急にヒヨリに近づき耳元で呟いた。
「今日は貴女を貶めることが出来なかったけど、次回はやるから」
「……」
「健さんの傍にいるのは、私。村岡美紗子だってこと覚えておきなさい」
言いたいだけ言ったあと、挨拶もなく会場を後にする美紗子。
その様子を見て、コウはますます怪訝顔になった。
「なに、あれ……美紗子ちゃん、どうしたんだろう?」
心配がっているコウに、ヒナタは甘い笑顔でコウを見つめる。
「コウさま」
「へ?」
コウと視線が合うように、ヒナタは腰を屈めた。
「コウさまとあろう方が、そのようなことでは困ります」
「え……? どういうこと?」
何を指摘しているのか、コウにはわからなかったようで顔を真っ赤にしてヒナタに視線を向けている。
ヒナタはクスッと小さく笑い、コウに視線を合わせた。
「もっと貴女は、人を見る目を養うべきですよ」
「え……?」
「文月家本家の一人娘であるコウさまに群がる輩は、これからたくさん出てきます」
「……」
「そのとき、自分の目で敵か味方かを見極める力をこれからつけていっていただきたい」
「ヒナタ……」
その発言で、ヒヨリは心苦しく思った。
少しだが、今までの美紗子の態度をみて思うことはあった。
それなのに対策を練ることをしなかった。目の前の出来事に意識をもっていき過ぎた。
その結果が、これだ。
ヒナタが現れなかったら……ヒヨリはゾッとして唇を噛む。
一方、真剣な表情で頷くコウを見て、ヒナタは深く頷いた。