執事ちゃんの恋
「とにかく、だ。なんとか切り抜けるしかないだろう」
「う、うん……」
なんとも心もとない返事だ。
ヒナタは、ヒヨリの頭にポンと優しく手を乗せて、小さく笑う。
「そんな弱気なヒヨリは、ヒヨリじゃないよ」
「ヒナタ……」
「大丈夫。なんとかしていこう。……いくしかないんだから」
あれこれと未来を馳せ、キラキラの瞳で考え込んでいるコウ。
それを少しだけ離れた場所で、ヒナタは兄らしく振舞う。
「コウさまのあの発言も……実際問題無理だろう」
「……うん」
「確かに文月家には直系の跡取りは、実質コウ様、ただお一人。だが、コウ様はどうあがいても女性だ」
「……」
「表立っての文月家の統括は無理に等しい。ずっと独身でいるといわれればできるが……、そうすると次の跡取りがいなくなってしまう」
ヒナタが言っていることは正しいし、現実的だ。
ヒヨリは小さくコクリと頷く。
「今の文月家の状況を見るかぎり……、他の直系を当たることになるだろう」
「……健せんせ、ってこと?」
「恐らく、な」
現文月家当主の弟。それが今一番、次期文月家の当主に近い人だろう。
健が次期当主に収まり、そして嫁を乞う。
これが今現在ベストではないかと思われる線だ。
それは内外問わず、予想していることだ。
ヒヨリもそのことは念頭に置いていた。
コウはまだ年端もいかない。それに彼女を当主にするには重荷すぎる。
となれば、コウに婚約者をたて文月家を守り立てていくという案もあるにはある。
だが、それは博打といっても過言ではないだろう。
その婚約者が野望を抱いていないとも限らない。最悪、文月家を乗っ取られてしまう可能性だってないとは言い切れないのだ。
となれば、安全策をとるとすれば一番いいのは健が文月家の次期当主になることだ。