執事ちゃんの恋
――― あとで詳しく聞くから。
そんな絶対零度の視線を向けられ、ヒヨリとヒナタは背筋をピンと伸ばした。
二人の緊張した様子を見て、クスリと意味ありげにほほ笑んだ健は、ヒヨリに手を伸ばす。
強引に腕を掴み、ヒヨリを引っ張って自分の隣に立たせると腰を抱いた。
慌てたのはヒヨリだ。
突然健の熱を感じ、飛び上がり叫び声をだしてしまいたくなるほどだった。
顔を真っ赤にさせて視線を泳がすヒヨリに、健は満面の笑みを浮かべる。
それは、辺りにいた令嬢たちが頬を染めてしまうほどの威力があった。
「では、私たちはこれでお暇しようか」
「へ?」
驚いて健の顔を見上げるヒヨリに、クスッと甘い笑みをしてヒヨリを抱く腕に力を込める。
「ヒヨリは人酔いしやすい子でね。そろそろ疲れもでてきたころだろう……ね? ヒヨリ」
早めにこのパーティー会場から抜け出させてくれるという約束は本当だったらしい。
ヒヨリは、ホッと息を吐いて頷いた。
とにかく、この最悪な状況は脱することはできそうだ。
美紗子からの悪意ある攻撃と、コウの命令うんぬんのことで頭がパニック状態だ。
その上、いつ誰にまた攻撃をしかけられるのかわかったものじゃない。
なんせヒナタの情報によれば、偽ヒナタはアイドル状態だという。
その情報はきっと、色んなところに流れていることが予想される。
そのヒナタの双子の妹にだって、興味の視線は向けられるのだ。
プレイポーイだが意外としっかりしているヒナタにこの場を任せてたほうが賢明かもしれない。
そう判断したヒヨリは、健の助けに乗ることにする。
健の手が自分の腰に抱きついているこの状況に恥ずかしさが込みあげるが、今はとにかく流れにまかしておいたほうがいい。
ヒヨリも違和感があまりないよう努めながら、コウを見て申し訳なさそうに眉を下げた。