執事ちゃんの恋
「健せんせ……あの、あのね」
「そういえば、ヒヨリ。今日が誕生日でしたね」
ヒヨリが覚悟を決めて言おうとした言葉を掻き消すように健が微笑んだ。
出鼻をくじかれたようで一瞬言葉を失ったが、ヒヨリはコクリと頷いた。
ソッと空気が揺らいだ。
健が腰を少しあげ、ヒヨリの頭を撫でたからだ。
「おめでとう。ヒヨリ」
「健、せんせ」
「これで君もオトナの仲間入りですね」
「……社会的にはね、だけど……まだまだ子供かもしれない」
昨日までは19歳だった。
一晩あけたからって、突然オトナにはなれない。
容姿だって、一晩ではなにも変わらない。
きっと健にとっては、今も小学生のときのヒヨリの面影を映しているに違いないのだから。
それがわかっているのに、今から無謀なことを健せんせに頼もうとしている。
緊張のあまり、喉がカラカラだ。
手には嫌な汗がじっとりと滲む。
高鳴る鼓動は、ずっと警戒音のように耳元で煩い。
まっすぐに見つめれば、ずっとずっと……ずっと大好きな人が手に届く距離にいる。
ヒヨリは、熱くなっていく顔と目頭を感じながら真正面から健を見つめた。
――― これが最後かもしれない。これを逃したら、一生……。
ヒヨリは、覚悟をもって健を見上げた。