執事ちゃんの恋
「コウさま。申し訳ないですが……」
「いいのよ、ヒヨリ。それより体調は大丈夫? かなり無理させちゃったんじゃない?」
コウの瞳が揺れる。きっと心底心配しているのだろう。
ヒヨリは罪悪感に苦しんだが、今はしかたないと割りきる。
大丈夫ですよ、と笑顔で言うとコウはホッとしたように表情を緩めた。
「それでは、ここで失礼させていただきます」
「ううん、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、お招きいただきありがとう存じます」
ゆっくりと会釈をするヒヨリの腕をコウはガッシリと掴んだ。
吃驚したのはヒヨリだった。
いきなりのコウの行動にあっけにとられたのは、周りの人間も一緒だ。
ヒナタも健も、突然のコウの行動に目を大きく見開く。
「コウさま?」
「ヒヨリ。あの言葉、忘れないでね」
「……え?」
ヒヨリはあまりに真剣な顔をして自分の腕を掴んでいるコウを見て、首を傾げる。
そんなヒヨリに、コウは業を煮やしたように口を尖らせた。
「私の味方だって。もちろんだって言ったでしょ!」
「あ……」
確かに言った。
が、今となってはその言葉も撤回したいと願うヒヨリに、コウは必死の形相で掴んでいたヒヨリの腕を揺すった。
「ちょっと、頼むわよ! ヒヨリ」
「あ……えっと」
モゴモゴと言葉を濁すヒヨリに、コウはギロリと厳しい視線を向けた。