執事ちゃんの恋





「さぁ、コウ。もういいでしょう」

「健くん?」

「そろそろヒヨリを解放してやってください。気分が悪くなってからでは大変だ」

「そ、そうよね! ごめんね、ヒヨリ」


 今までの凄みをみせていた人物とは思えないほどの狼狽ぶりに、ヒヨリは思わず噴出してしまった。


「まだ大丈夫でございますよ、コウさま」

「よ、よかったぁー」


 ホッと胸を撫で下ろすコウに、「では」ともう一度会釈をする。
 一方の健はというと、こちらも凄みのある笑みを浮かべてヒナタに苦言した。


「ヒナタくん」

「は、はい……」

「今はとにかくコウの傍にいてくれ。その任が終わり次第、私の部屋にきてほしいのだけど……来てくれるよね?」

「……」


 ヒナタとしては、これまでのことを詮索されることがわかっているので行きたくはない。
 しかし、この場合。
 どうしたっていかねばならないのだろう。
 ヒナタは小さく息を吐き出したあと、頭を下げた。


「承知いたしました、健さま」

「じゃあ、あとで」


 意味ありげな笑みを浮かべた健は、ヒヨリを促しパーティー会場をあとにする。
 あちこちから意味深な視線を投げかけられていたが、ヒヨリと健はそれを無視することに決め、とにかくこの場から離れることだけを念頭に置いた。


 だが、一難さってまた一難だ。



「さぁ、ヒヨリ。君とヒナタには色々聞きたいことがあるんだけど? フフッ」


 健の不気味な笑いに、ヒヨリは後ずさりをし、エレベーターの密室の中で背筋を凍らせた。






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