執事ちゃんの恋
「あのとき……美紗子さんが言ってた。次こそは私を陥れるって、健せんせの傍にいるのは自分だって……」
「なんで今ごろ、そんなことを言い出したんだろうな」
ため息ばかりでるな、と健は大きくハァと息をつく。
健の顔を覗き込み、心配そうにしているヒヨリを見て、申し訳なさそうに「ごめん」と呟いた。
「ヒヨリには大変な思いをさせてしまったね……私のミスだ」
「健せんせ……」
「ごめんな、ヒヨリ」
頭が混乱しているのか、健は頭を抱え、深くため息をつく。
そんな健を見て、なにもできないことがもどかしいとばかりにヒヨリは健のスーツの袖をギュッと握った。
大丈夫だよ、と小さく呟きながら。
二人の様子を窓辺から見ていたヒナタは、話を切り替えるように口を開いた。
「とにかく、です。彼女はヒヨリに宣戦布告をしてきたも同じこと。マークしておいたほうがいいかと思いますよ」
「ヒナタの言うとおりだな。私は美紗子に心を許しすぎたのかもしれない」
「健せんせ……?」
傷ついたような表情を浮かべるヒヨリに、健は困ったようにクスクスと笑った。
「違うよ、ヒヨリ。彼女に対して恋愛という感情はないから安心して」
「た、た、健せんせ!?」
「以前、婚約破棄をお互いの意思でしたからね、美紗子も、そういう感情はないと思っていた。同士のような気持ちでいたのかもしれない」
「同士……」
「そう。お互い家というしがらみに苦しんでいる同士」
しかし、と健は苦笑いを浮かべた。
「そう思っていたのは自分だけだったということか……」
自虐的に笑う健に、ヒナタは首を横に振った。