執事ちゃんの恋




「村岡美紗子は、確実に今日の二人を見て焦ったでしょうね。これだけ甘ったるい雰囲気を纏っていれば、ね」

「ああ……確かに」


 クスクスと楽しげに笑う健を、ヒヨリは口を尖らせて睨みつける。
 その視線を感じて、ますます健は嬉しそうだ。


「美紗子がこんな暴挙にでたということは重く受け止めなくてはならないな」

「……ですね。信頼していたのなら、尚更辛いとは思いますが……」

「信頼していたからこそ、ヒヨリのメイクアップのことや、ヒナタとヒヨリの入れ替えのことも話したんだ。確かにショックではあるね」

「……どうしましょうか、彼女のほうは」

「うーん、そうだなぁ」


 ヒヨリの頭を撫でるのを一瞬止め、唇を結ぶ。
 そのあと、健はヒナタに視線を投げた。


「彼女のことは、こちらの人材を使うことにしよう」

「わかりました」

「だから、ヒナタ。……こちらのほうは、頼むよ」


 健は、ヒヨリをもう一度きつく抱きしめた。


「了解しました」


 畏まって一礼するヒナタを、ヒヨリはなんのことだかわからずキョトンと見つめた。






 
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