執事ちゃんの恋
「あーあ。せっかく今日はかっこよく決まっていたのに。これじゃあ村にいたときと変わり映えしないじゃないですか」
ヒヨリは背伸びをして、グシャグシャになってしまった健の髪を撫で付けながら整える。
直してくれるというのをわかっていたのだろう。
ヒヨリが髪を整えやすいように少し腰を屈めて、目尻を下げる健。
二人の仲睦ましい様子を見て、ヒナタは小声で、「やってらんねー」と長い足を組みなおした。
ヒナタの呟きを聞いたのだろう。
健はニッと笑い、「どうだ、いいだろう」とヒナタに視線を向けた。
それを見て、ヒナタは苦笑いを浮かべるだけで、もう何も言わまいと口を閉ざした。
「ほら、これで元通り。早く栄西さまのところに行って」
グイグイと健の背中を押したが、なかなか栄西のところに行きたがらない健にヒヨリはため息を零した。
「もう、本当早くいかなきゃやばいんじゃないですか?」
口を尖らせるヒヨリの唇に、風のように軽い挨拶のようなキスをした。
一瞬あっけにとられてポカンと口をあけたままだったヒヨリだったが、ジワジワと恥ずかしさがこみ上げてきたのだろう。
首まで真っ赤にして健を睨みつけた。
が、恥ずかしがっているヒヨリの睨みなど怖くもなんともない。
健は、クスッと笑ったあと、真っ赤に熟れてしまったヒヨリの頬にゆっくりと触れた。
「しかたないな。行ってくるよ」
「……」
無言のままムッツリと口を尖らせるヒヨリだが、真っ赤な顔ではせっかくの睨みも健には効果はない。
「いってくるね、ヒヨリ」
「……いってらっしゃい」
それでもきちんと返事をするあたり、惚れた弱みだろうか。
チラリと健をみて声をかけたあと俯く。
その仕草があまりに可愛くて思わず抱きしめようとした健だったが、至近距離から冷たい視線を感じて肩を竦めた。