執事ちゃんの恋
「そんなに睨まなくたっていいでしょう? ヒナタ」
「睨みますよ。それも身内がいる目の前でキスすることないでしょう?」
お互い貼りつけたような笑顔で牽制しあう健とヒナタだったが、再び鳴り出した携帯の着信音で均衡が解かれた。
「再度のお呼び出しだ」
面倒だ、と小さく呟いたあと、健はやっと部屋を出て行った。
パタンと扉がゆっくりと閉まるのを見届けたあと、ヒナタは壁に背を預けたまま苦笑した。
「ったく。健先生は、相変わらずだよな」
「そ、そうだね」
ヒナタの前で健からのキスを受けてしまったヒヨリは、なんとも居心地が悪い。
身内にラブシーンをみられるほど恥ずかしいものはない。
モジモジと指と指を絡ませ俯くヒヨリの背中を、ヒナタはゆっくりと押してソファーに座るように促す。
「でも、まあ……よかったよ」
「え?」
なにが、と不思議そうなヒヨリの表情をみて、今度はヒナタが不思議そうな顔をする。
「なにがって……健先生とヒヨリ、両思いになったんだろう?」
「……」
「あれだけ健先生スキスキオーラをふりまいていたんだから、恋人同士になって嬉しいだろう」
ヒナタは嬉しそうに頬を緩ませたが、一方のヒヨリは固い表情のままだ。
「別に、今までどおりだし」
ふてくされて小さく呟くヒヨリに、意外だとばかりにヒナタは首を傾げる。
その仕草を見て、ヒヨリは長く息を吐いた。