執事ちゃんの恋
「健せんせに好きだって……言われたことないもの」
「もう、いいから……」
無理して泣き笑いをするヒヨリに、ヒナタは困ったように何度も背中を擦った。
妹の痛々しい笑顔を見るのはツライ。
ヒナタは、何も言わずヒヨリが泣き止むのを待つしかできなかった。
しかし、とヒナタは泣いて震える妹を見ながら首を傾げる。
傍から見て、どこからどうみても恋人同士にしか見えない。
健を見ていても、どこにも不審な感じはしない。
それどころか、ヒヨリをひと時でも離したくはない。
そんな独占欲さえも垣間見えるというのに……。
ヒヨリはそれを感じていないのだろうか。
一方の健は、どうしてヒヨリが長い髪を切り、兄であるヒナタの代わりとして文月家長女のコウの執事をしているのか、理由を今だ知らない。
――― この二人。変なところで秘密隠し通さなくたっていいのに。それが原因ですれ違っているのかも。
ヒナタは、なんとも不器用な恋を繰り広げる健とヒヨリのことを思い、天井を仰いだ。
やっと涙も止まり、落ち着いてきたヒヨリは思い出したように、顔を勢いよくあげてヒナタを見つめた。
「ねぇ、ヒナタ。これからも続けていくつもり?」
「ん?」
「だから、私はこれからもコウさまの執事をしていなくちゃだめ?」
「ダメだろう。だって、根本的なことが解決していないだろう?」
え? と首を傾げるヒヨリに、ヒナタは困ったように笑った。
「今、自分が言っていたんだろう。健せんせは、ほかに好きな人がいるらしいって」
「……うん」
「そして、そのことを思ってヒヨリは涙を流す。まだ健せんせのこと忘れられないんだろう。健せんせには、ほかに好きな女がいたと聞いても」
冴えない表情で、ヒヨリは小さく頷いた。
結い上げていた髪がひと房、ハラリと落ちた。
それを直すこともせず、そのままの状態でヒナタを見上げる。