執事ちゃんの恋
第29話
第29話
「……今、なんと言いましたか? お父様」
学校に行くコウを玄関先で見送ったあとだった。突然鳴り響いた携帯を片手にヒヨリは庭のほうへと早足でかけていく。
まずは誰もいないことを確認したあと電話に出た。
あのパーティー以降、これといって困ったこともなく穏やかに過ごしていた。
美紗子からの攻撃もまったくなく、身構えていたヒヨリは少しだけ拍子抜けしていたのだが……。
どうやら嵐の前の静けさだったらしく、ヒヨリは今しがたかかってきた実父の電話にため息を零したくなった。
スゥと息を小さく吸い、吐く。
心を少し落ち着かせてから、ヒヨリは電話の主にもう一度問いかけた。
「今、なんと言いましたか? お父様。私には、とんでもないことのように聞こえましたが」
静かな声だが怒気を含ませているヒヨリの言葉口調に、宗徳は苦笑する。
「とにかく落ち着け」
「これが落ち着いていられますか!」
思わず声を大きくしてしまったことに気がついたヒヨリは、慌てて自分の口を塞ぐ。
そしてもう一度、辺りに人がいないことを確認し安堵したあと、気を取り直した。
「で、いったいどういった経緯で、そんな話が出てきたんですか?」
体面上は冷静を取り戻したヒヨリは、電話口の宗徳に問う。
一方の宗徳は、少しだけ声のトーンが落ち着いたようにみえる娘に安堵した。